【書評】「冷たい校舎の時は止まる」辻村深月:記事後半ネタバレあり

こんにちはー。くまぽろです。

辻村ワールドすごろくを読み進めるにあたり、ちゃんと覚えていない作品を読み返しています。
今回は『冷たい校舎の時は止まる』です。

スポンサードリンク

「冷たい校舎の時は止まる」辻村深月

冷たい校舎の時は止まる
著:辻村 深月(つじむら みづき)

★★★☆☆

人気作家、辻村深月さんのデビュー作で、第31回メフィスト賞受賞作品です。
上下巻で、しかもそれぞれが分厚め(600ページ弱)です。

雪が降るある朝、受験を控えた高校生8人がいつものように登校すると、突然学校に閉じ込められてしまいます。
どうしても開かないドアや窓。他の生徒も先生も誰もいない。
そして、ふと時計を見上げたとき、時間が止まっていることに気がつきます。

最初は、驚き訝しみながらもどこか楽観的だった8人。しかし次第に不安は増していきます。

それぞれのキャラクターの背景と心情が丁寧に書かれた、辻村深月さんらしい作品です。

あらすじ

雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。
開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。

凍りつく校舎の中、2ヶ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。

でもその顔と名前がわからない。
どうして忘れてしまったんだろうーー。

–本書の背表紙より引用

感想(ネタバレあり)

ここからネタバレありで書いていきます。
本書をまだ読んでない方は、ご注意くださいませ。

正直に言うと、他の辻村作品に比べると、好き度は低いです。

理由としては、「深月の心の中に、他のみんなを取り込んでしまったから」っていうSF要素によって、いろいろな不可解な点をガバッと片付けてしまっているように感じるから。

また、深月が自分に向ける自虐心によって人を巻き込みすぎな点も、程度がひどいのでちょっと共感しづらいですね。
しかも、みんなを(意図的じゃないにしても)自分の中に取り込んで、みんなに責任を感じてほしいのに、自殺した人が誰だかわからない状態にするっていうのも、なんか納得がいかないというか。

あと辻村作品に、苗字か名前かわからないキャラクターの呼び名が多いなぁと思ってきたのも少しあります。笑
というか、むしろこの話が原点か。
 
 
でもでも、好きなところもありますよ。
それは、それぞれのキャラクターの中に、表面的にはわからない思いが渦巻いているところ

こういうの、わたしは好きです。
メインのストーリーがなかなか進まないけど、それぞれのキャラクターの見えなかった部分がどんどん見えてくる話。

恩田陸の『夜のピクニック』や『黒と茶の幻想』が好きなんですが、近しいものがあります。
うろ覚えですが、あっちのほうがもっとメインストーリーでは事件が起きなかったような気がします。でもすごく面白い。
あと昔見た映画の『キサラギ』も面白かった記憶がありますが、同じ系統でした。

わたしとしては、景子がこの冷たい校舎に来たことで、自分が向き合うべきものに向き合うことができて、本当によかったな〜と思いました。
 
 
そしてやはり気になるのは、なぜ主人公の名前が作者と同じなのかってこと。

物語が始まる前の、一番最初のページに以下の一言があります。

「冷たい校舎の中で、彼らと一緒に過ごしたこと。今また、あなたが新たにページを開き、雪降る通学路を歩き出そうとしていること。それを思う時、前が向けます。」

作者の辻村さんは、主人公の深月に近い経験(例えばいじめられるとか拒食になるとか)をして思い悩んだことがあるのかもしれませんね。
それを作品として吐き出して、乗り越えた上に、今がある…とか?
作中の深月はかなり自虐的なキャラクターだけに、読みながらすごく気になってしまいました。

ちなみに、作中の「辻村深月」と作者の名前の、「辻」の字のしんにょうの点が1つか2つかが違うということには、他の方の感想を読むまで気づきませんでした。笑
(しんにょうの点が2つの方って変換で出せないんですね…)

作中の深月(=過去の自分)を受け止めて昇華して、そこに1つだけ点を足して、ペンネームにしたんでしょうか。
本当のところはわかりませんが、そんなふうに推理していました。
 
 
さて、これで読み直しも一段落したので、また辻村ワールドすごろくを前に進めていきたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
以上!