『屍鬼』〈1〉〜〈5〉
著 : 小野 不由美
小野不由美は十二国記は4、5冊は読んでて、屍鬼もタイトルは知ってたので、前々から読んでみたかった作品。
文庫は一から五まであって、わたしは一冊ずつ別の話なのかと勝手に思ってたのだけど、全部続いたかなりの長編だった。笑
田舎の閉ざされた村の話なので、全体的に雰囲気がぼんやり暗い。なんだかじめっとした重さを感じる。それがじわじわ進むストーリーと相まって、不気味さとつながってくる。
でも読み始める前はもっとガチで怖くて夜中にトイレ行けなくなるのではと思って、びくびくしながら読み進めていたのだけど、実際は怖い話というより、苦しくて切ない話だった。怖さももちろんあるのだけど、どちらかというとそれは本題ではなくて、中盤〜後半どんどん感情移入して悲しいし苦しいし切なくなる。
キャラクターがたっていて、それぞれの目線、それぞれの思いが丁寧に書かれているから、とても感情移入してしまうのだと思う。
*** ここからネタバレ(を気にするべきなのかわからないけど)ありでいきます ***
生きるためには自分の手を汚さなくてはいけない。それは生きるための行為であって、理屈だけ考えれば「手を汚す」ことだなんて考えなくていい。だってそうしなければ自分が死んでしまう。世界はそうやって命が命を食べて成り立っているのだから、何も悪いことなんかじゃないのだ。
でも感情はそうは割り切れない。「手を汚す」ことだと感じてしまう。
しかも動物とは違い、対象と会話ができてしまって、しかも同じ村の中で、その人を知っていたりする。ましてや、家族だったりする。
命のあり方が変わったことを割り切れる人、割り切れない人。
自分を憎む人、悲しみ・恨み・妬みで自分を正当化する人、自分の命を捨ててでも自分の意思を貫く人。
それぞれの登場人物のシーンで何度もぐっとくるのだけど、やはり一番は夏野くんだな・・・。
杭を刺せないのも、最後に窓を開けておいてあげるのも、悲しすぎるよ・・・。
考えてみると、いまの人間社会はすごいよね。
わたしたちだって普通に動物を食べて生きているのに、自分で殺していないからそんなこと日常では忘れてしまう。スーパーでお肉買ってくるのと、自分で牛とか豚とか殺して食べるのとは、全然「食事」に対する感覚が違う。
そんなこと意識しないでいられるから、それぞれがそれぞれの仕事をして、こんなに高度に社会が発展したわけで。
生きていくことをずっと簡単にしている(戦争や飢餓などがないところなら、だけど)仕組みがすごいよなぁ。
とても心が動く小説だった。
こんな長編読んだのひさしぶりだな〜。